羊肉の魅力:北海道名物「ジンギスカン」から「生ラム肉」までの進化
羊肉は日本であまり一般的ではありませんが、特に北海道を中心に独自の文化が育まれています。ここでは、羊肉がどのように日本、特に北海道で受け入れられているのか、その歴史と人気の理由、最新の羊肉トレンドについて詳しく解説します。
羊肉の種類:ラムvsマトン、どちらが日本で人気?
羊肉は成長により呼び方が変わります。一般に生後1年未満の永久門歯が1本も生えていない仔羊のことを「ラム」、生後2年以上で永久門歯が2本以上生えた羊を「マトン」と呼びます。柔らかくジューシーなラム、濃厚な味わいのマトン。日本ではラムの方が人気のようですが、ある精肉店の店主に言わせると「通はマトン。ラムは物足りない」と語ります。好みは分かれているようです。
国産羊肉のレア度:輸入に頼る日本の羊肉市場
日本で出回る羊肉のほとんどはオーストラリア、ニュージーランドからの輸入です。最近は新型コロナの影響で生産量が減少し、加えてアメリカや中国で羊肉の人気が高まり、価格は高騰しています。国産の羊肉はというと、残念ながら1%足らず。ほとんど流通していないのが現状で、海外情勢の影響を受けやすい肉です。
北海道の羊肉生産:全国の供給の7割を占める重要な地域
ただ北海道や東北など北日本を中心に飼育している農家がいます。令和3年の統計では北海道内に羊の飼育農家は194戸、頭数は11,000頭で、全国に占める羊肉生産量は7割以上と都道府県別では全国一位です。
「全国の7割以上が北海道」と聞くと「北海道で食べるジンギスカンの肉は北海道産?」と思われる方も多いと思いますが、1%の中の7割ですから、北海道で食べるジンギスカンもほとんどが輸入羊肉です。北海道名物も実は輸入品なのです。ただ全国各地の「名物」がその地で生産されたものではない、ということは珍しいことではありません。
羊飼育の目的は羊毛から肉へ
ジンギスカンの歴史:戦争がきっかけで広まった北海道のソウルフード
ではなぜ羊肉の「ジンギスカン」が北海道に定着したのか。それには戦争が深くかかわっています。軍服を作るために羊毛が使われていたことから、第一次大戦があった大正時代に、全国に5カ所、北海道では滝川市、札幌の月寒に種羊場が開設されたことに端を発します。
普及の立役者は「松尾ジンギスカン」
当時、羊毛を取るのが第一の目的で、羊の肉は二次産品だったこともあり、価格が安く庶民の味として食べられるようになりました。本格的に普及したのは第二次大戦後のことです。クセのある羊肉に醤油ベースの味付けをした「松尾ジンギスカン」が売り出され、瞬く間に全道へと広がりました。
北海道の気候を好む羊たち
羊は見てもわかる通り、体毛がふさふさしており、寒さに強い動物です。人類が初めて家畜として飼った動物が羊であり、それも涼しくて乾燥気候の中央アジアでした。日本では羊毛を目的として飼育された後も、北海道に限っては気候的に適地のため、羊を飼って肉を食べるという文化が残ったのです。
ジンギスカン鍋の科学:なぜこの形状なのか?
ジンギスカンの起源は「モンゴル帝国の初代皇帝であるチンギス・カンが兵士たちに鉄兜で羊肉を焼いて食べさせた」という話がよく聞かれますが、真実のほどは不明です。ただ兜のような独特の形状をしたジンギスカン鍋の中央の膨らみと全体に刻まれた溝にはわけがあります。
野菜に味が染み込む仕掛け
中央の膨らみにより鍋の表面積が広くなって、一度にたくさん焼けるメリットがあります。また焼いている肉は周囲に向かって傾斜しているので焼きやすく、食欲も増します。肉の余分な脂やタレは溝を伝って周囲に流れ落ち、それを吸収した周囲の野菜は旨味を増します。ジンギスカンはジンギスカン鍋で焼くのが常識でした。最近はフライパンで野菜やうどんと一緒に炒め、皿に盛って出したり、すき焼き鍋で煮込んで食べるなど、さまざまな食べ方があり、「ジンギスカン鍋」にこだわる人は少なくなりました。
技術革新の賜物「生ラム」
最新トレンド「生ラム肉」:高級で多様な部位が楽しめる
さて、話はずっと戻って子羊の「ラム肉」ですが、最近は冷凍、冷蔵技術、輸送技術の発達で、海外から来る冷凍されていないチルド(0℃)の「生ラム」が人気です。冷蔵(4℃前後)では傷んでしまい、冷凍では味が落ちるラム肉を、凍らないぎりぎりまで温度を下げた状態のまま、輸送されます。
「生」に潜む3つの意味
「生」にはいくつかの意味があります。一般的に加熱していないものを「生」と言いますが、味付けしていないものを「生」と言うことがあります。さらに凍らせていないものも「生」ということがあります。「生ラム肉」の「生」はこれら3つのすべての条件をクリアした「完全な生」です。
味付けタイプと輪切りタイプ
ジンギスカンにはタレに漬けて味付けしたタイプと、ブロック肉を円柱の容器に入れ、圧縮して冷凍、それを輪切りにしたタイプがあります。後者の場合は味付けせずに焼いて、食べる前にタレを付けて食べます。最近は前者の味付けタイプが主流ですが、輪切りタイプも中高年を中心に根強い人気があります。
後発の「生ラム」はジンギスカンとは似て非なるもの
上記2つのタイプが主流だったところに一石を投じたのがこの「生ラム肉」です。従来のジンギスカンの概念を超えた、新たなラム肉の領域です。厚切りロースや骨付きのラムチョップなど、部位も様々です。少しお高い高級肉ですが、羊肉ファンにとっては大歓迎。味、食感、羊肉独特の風味(個性)…どれをとってもジンギスカンとは別物の味わいです。
羊肉は必ずしもジンギスカンにあらず
「ジンギスカンは飽きた」「食べたことはあるがあまり美味しいと思わなかった」などという方は、ぜひ一度、この「生ラム肉」を食べてみてください。羊肉=ジンギスカンではないということがきっとわかるはずです。
まとめ:羊肉は多様で、まだまだ未知の領域が広がっている
羊肉といえば「ジンギスカン」かと思いきや、多種多様な楽しみ方があります。特に「生ラム肉」は、その風味と食文化に新たな局面をもたらしています。国産生ラム肉は限定的ですが、通販で手に入れるチャンスも。是非一度、その魅力を体験してみてください。